第三章 夫の疑惑

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そして、出張直前に。 衝撃的な事が起こった。 帰宅して、玄関のドアを開ける。 いつも通りにリビングに向かうと、中からアヤの声が聞こえてきた。 相手の声は聞こえないから、おそらく電話をしているんだろう。 俺の帰りに合わせて夕飯の支度をする事が多いアヤとしては、珍しい事だ。 そこで、俺の中の疑惑が膨らんだ。 いつもはしない電話、アヤの最近の変化。 一体、誰と話してるんだろう…? ほんの少し罪悪感があったけど、これもアヤを信じるためだと自分に言い聞かせて。 俺は、そっと聞き耳を立てた。 「…うん、私も会いたいな」 耳に届いたのは、いつもより高くて甘いアヤの声。 その声と内容に、思わず声が出そうになった。 「…そんな風に言われたら、嬉しくなっちゃうなぁ。また今度、行くからね」 何を言われたのか、アヤはとても楽しげで。 それが無性に腹立たしかった。 怒鳴って、乱入して、電話を奪ってしまえば良かったのかもしれない。 でもそんな事をする自分は想像しただけでも惨めで、必死に衝動を抑え込んだ。 『また今度、行くからね』だって? 仕事で、店で会うだけじゃなく、外でも会っているんだろうか? 頭に浮かぶのは、電話の向こうでスマホを持つイケメンの姿。 その影を無理やり追い出しはしたけれど、すぐに冷静さを取り戻すことは出来そうになかった。 俺が出張でいない間、 アヤは、 喜んでソイツに会いに行くんだろうか? そう、考えてしまったから…。
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