第四章 夫婦の真相

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第四章 夫婦の真相

駅を降りると、東京よりも冷たい風が頬を撫でた。 けれど空気が澄んでいるせいか嫌ではない。 むしろ電車で温められた体には、その冷たさは気持ち良いとさえ感じられた。 初めて来たその街は、うっすらと雪化粧が施されている。 人が通る為に歩道の脇に集められた雪の山は、東京でたまに見かけるそれよりも白く美しくて、俺の目には新鮮に映った。 車窓から景色を見た時は止んでいた雪が、今はチラついている。 一歩踏み出す度に、新たに積もった雪がサクサクと足元で音を立てた。 しまった、傘を忘れた。 買おうかどうしようかと迷ったけれど、幸い目的地は近い。 俺は、雪を浴びながら歩くことを選択した。 手袋していない手が、氷のように冷たくなっていく。 はーっと息を吹きかけると、白い呼気が舞い、そして消えた。 奇麗だ。 絵にかいたような、冬景色だ。 うん、ハッキリ言おう。 テニス用品、売れねぇな。 そう確信した、出張初日。
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