第四章 夫婦の真相

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新店舗のオープニングセールは目が回るほど忙しくて、アヤの事を考える暇もなかった。 …という風になる事を願っていたのに。 三連休に狙いを定めたように寒波が襲来した。 極寒の街は、降り続く雪に覆われていく。 そんな中で、生活必需品でもないスポーツ用品を買いに来る人はやはり少なかった。 シーズン真っ只中のスキーやスノボ、流行りのヨガなども例外ではなく、店内に人はまばらで。 そうなると、俺の思考はどうしてもアヤの方に向いてしまった。 今、どうしているんだろう? いくら寒くても、東京では雪は降っていないはずだ。 出掛けているんだろうか? どこに?何をしに? …誰と? 重たい何かが胸の中を占拠して、やがてくすぶり始める。 菊池さんに『何をしても許してくれそう』とまで言われた俺だが、そんな余裕はどこにもない。 不機嫌さが態度に出てしまい、かろうじてお客さんの前で隠すのが精いっぱいだった。 だからだろうか? 「稲葉君、忙しい所呼び出して申し訳なかったね。今日は午前だけ様子を見て、客足が伸びないようだったら帰って良いよ」 出張最終日である三日目の朝、新店舗の店長にそう言われた。 俺がイライラしていたのが、不要な出張に対する不満だと思われたのだろうか? それとも降り続く雪で、帰れなくなる事を懸念したのか? 分からないけれど、願ったり叶ったりだ。 社交辞令で一度だけ遠慮はしてみたけれど、実際、この店に助っ人がいらないのは一目瞭然だったから。 俺は、ありがたく店長の言葉を受け入れた。 念の為に午前中は様子を見たけれど、やはり客足が増す様子はない。 割と早い段階で予定より早く帰る事が決定し、俺は売り場のスタッフに声を掛けて回った。 改めて見てみると、この店には良い人が多い。 それなのに個人的な理由でイライラした態度をとってしまい、申し訳ない事をしたな。 公私混同するなんて、俺もまだまだ未熟者だ。 「また今度、機会があれば手伝わせてください」 最後、店長にそう声を掛けて、俺は新店舗を後にした。 店長が笑顔で送り出してくれたことが、せめてもの救いだった。
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