第四章 夫婦の真相

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「お疲れ様でーす。…って、稲葉さん?出張は?」 休憩室で、そろそろコーヒーを飲み終えようかという頃に、菊池さんが入ってきた。 「客がいなくてさ、帰された」 「まじ?おつでーす」 笑いながら、ユニフォームの上着を脱ぐ彼女。 どうやら今日はもうあがりらしい。 休憩室の隅にある着替え用カーテンを引くと、その向こう側に入っていった。 「そういえば、稲葉さん大丈夫?」 「は?何が」 「ラブラブな奥さん、イケメンに取られそうなんでしょ?」 ぶはっ!! さらりと言われた言葉に、最後のコーヒーが喉に詰まる。 とりあえず最後で良かった。じゃなきゃ思いっきり逆噴射するところだった。 「なんで知ってんの!?」 「んー?岡本さんに言っちゃだめだよねー。もう皆知ってんじゃない?」 お、おかもとぉぉぉぉぉぉ!!!! まさか人の家庭の事情を、軽々しく口にはしないだろう。 そう思って相談していた俺が馬鹿だった。 そういえば、篠田さんが不倫デートの為に働いている、なんて話もあっさりと口にしていたっけ。 そんな事も忘れて、簡単に話した俺が悪い。 いや、それでも話さずにいられない程、追いつめられていたのかもしれない。 あまりの事に言葉を失っている俺を見て、カーテンを開けた菊池さんがケタケタと笑った。 「何?そんなにイケメンなの?奥さんの不倫相手」 「いや、まだそうと決まったわけじゃないけどね」 「でも、そのイケメンと一緒に働いてんのは事実なんでしょ?」 「う…まぁ…」 「だから言ったじゃん。いつか愛想尽かされるよって」 「………」 「稲葉さんもさ、やればそれなりになるハズなんだけどなー」 そう言って、菊池さんが俺の顔を覗き込む。 それはいつかの寝癖事件以来の近さで、少しだけ俺の腰は引けていたのだが。 俺を見る菊池さんの目は、真剣そのものだった。 「イケメンにしてあげよっか?」 「え?」 「イケメン嫌いな女はいないよ?少しはカッコよくしてさ、奥さん喜ばせてあげれば?」 寝癖の時、痛い思いをさせちゃったお詫びにやってあげる。 そう言ってニヤリと笑う菊池さんを、初めてカッコイイと思った。
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