第三章 天照とその娘

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『薫』  小さな、愛おしそうな声が耳に届く。それが自分の声だと気がつくと、俺はそんな声を出さない! と羞恥で悶える。だがそれでも目は覚めない。  瑛太は暴れる。だが生ぬるい湯の中で泳いでいるかのようで、指先は何も掴まなかった。 『この土地に着いてから、なぜか人恋しくてたまらぬ。そろそろ、わたしの傍に侍らぬか』  瑛太の指が薫の顎にかかる。滑らかな白い喉、細い顎、そして柔らかそうな唇に目が釘付けになる。息が止まる。  少しだけでいい。触れてみたい――と願ったのがまずかったのか。 「はいはい、ストップストップ!」 「――ぐ!?」  喉に圧迫感を受けて気が遠くなる。だが次の瞬間ハッと我に返った。気がつくと、瑛太は薫の顔を覗き込むような恰好で――あと少しで触れそうな位置で――宇宙に首根っこを掴まれていたのだった。
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