第四章 神の降りる島へ

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 *  スマホが震え、瑛太はディスプレイを覗き込んで顔をしかめた。 『で、瑛太くん。あなたの中にいるのは、一体何?』  相手は波多野あゆみ――例の神社オタクだった。突っぱねたいけれども、瑛太は彼女に弱みを握られてしまっている。 『薫ちゃんを助ける代わりに、なんでも言うこと聞くって約束したよねー? 約束守らないと、薫ちゃんにスポーツドリンクがなんで減ってたか教えちゃうぞ☆』  思わずスマホを握りしめる手が震えた。  それは、壱岐の男嶽神社の展望台で薫が倒れたときのことだ。  とにかく水分を取らせねばと慌てた瑛太は、頭が真っ白になった挙句に、とある行動に出てしまった。結果、それを居合わせたあゆみに見られたのだ(ちなみに、あゆみに止められてから知ったのだが、熱中症のときには、自力で水分を取れるかどうかが症状の重さを量るバロメーターなので、人が無理に飲ませてはいけないらしい)。  質が悪い大人だと思う。金も時間もある大人がオタクになると、たいてい手段を選ばないから手がつけられない。  誰かに似ている――と考えて、答えはすぐに出た。陸だ。  扱いの難しさを思い出した瑛太は、うんざりする。 『誰にも言わないでくださいよ』  と書きながらも、誰にも言わないだろうなと思う。こんな話、口にすればあゆみのほうがおかしいと思われる。
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