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(あー……それにしても……下手打った)
墓まで持っていかねばならない秘密は、いつか瑛太を滅ぼすかもしれない。
そう思うと憂鬱になるけれど、ああするしか思いつかなかった。あとで罵られようと絶縁されようとかまわないと思っていた。
あのとき、瑛太は自分の無能さと非力さと、さらには自分のエゴで彼女を縛ってしまっていたことを恥じた。
だからこそ、もう薫を巻き込みたくないと、必死で慣れない嘘を吐き、一方的に絶縁を言い渡した。そうして名前探しを、無理矢理に打ち切るつもりだったのだが……。
(『関係なんてなんでもいいから』とか。……敵わねーな)
薫の気持ちは震えるほどに嬉しかった。だが――薫の方はそれで満足なのだろうけれど、瑛太の方はそうはいかない。
(俺は、なんでもいいとは思わない)
関係には名前が必要だ、と瑛太は思う。幼馴染という関係では許されないことを、瑛太は望んでいる。
己の唇に触れ、薄れそうになる記憶をつなぎとめていると、もっと欲しいという望みに気がついてしまう。
瑛太は瞑目し、そして何度目になるかわからない深いため息をついたのだった。
《完》
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