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第三章 天照とその娘
一
隣には幼い薫が眠っている。小学生の頃の薫だろうか。まだあの頃は割りと髪が長かった気がするが、兄のお下がりを着ているせいでまるで少年のようだった。
その姿を見て、瑛太はひどくホッとする。この薫になら、不埒な感情を抱くことはない、隣で幼馴染として笑っていられる、と。
だが、そんな瑛太をあざ笑うかのように、薫はみるみる成長してしまう。
中学生になった薫は、今までのようにズボンを履けないとふくれっ面だ。瑛太はその制服姿を見て、ああ、この子は自分と違うのだと初めて強く意識した気がした。
一度意識するとなかなか元には戻れなかった。
長い前髪と眼鏡に隠れた瑛太の目は、気がつくと薫を追っていた。教室でも家庭でも、始終傍にいるというのに、飽きることなく見つめていた。
そして今、隣には高校生の薫がいて。瑛太を誘うように目を閉じていた。
瑛太は、いつの間にか自分が半身を起こして薫を見下ろしているのを知る。
背後霊のように後ろから見ている感覚は、独特の感覚だ。
大分慣れたけれど、だからといってコントロールすることは未だできない。
己を取り返せたのは、わずかに一回。必死過ぎてどうやったか覚えていないせいで、未だ『彼』を止める術がわからない。
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