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その夜、僅かに積もった雪の上を泣きながら歩いて駅に向かった。電車内では泣くのを我慢して、また駅から自分の家まで泣きながら帰った。雪が電車に乗る前より増えていて、歩くとザクザクと音がした。
雪が心にも積もっていく。一人はなんて寒いんだろう。
パンプスの中が濡れて冷たい。住んでいるアパートに着いた時には頭の上にも雪が積もっていた。
***
二年が経った。
雪が降っていた。
私は二年前を思い出して、涙があふれそうになるのをこらえた。
今日も傘を持ってきていなかった私は、ため息を一つついて足を踏み出す。駅からアパートまでは15分ぐらいだ。
「木村さん。傘、ないんですか?」
後ろから男性に声をかけられ、私は驚いて振り返る。
「同じ駅だったんですね」
傘を差しだしていたのは同じ会社の早乙女さんだった。笑った早乙女さんを始めて見た気がする。いつも仕事中は、構うなオーラが出ている人だったから。
「僕はすぐ近くなので、これ、使ってください。じゃあ!」
早乙女さんはまた笑って、左に進路を変えると歩いて行った。
男性の傘は大きくて、ちょっと重かった。
私は傘をお供に雪の中を歩き始める。ザクザクとあの日のと同じ音がする。でも、心は傘の分だけ軽くなった。私は祐也を忘れようと思った。
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