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糸の声は遥か遠く
女は珍しく自分の方から男に電話をかけた。
普段ならば男がかけてくる電話に彼女が答えるのだが、今回は彼女の「とある都合」で電話をかけざる終えなかった。
もちろん男はその女の真意など知るはずもなく、喜んで電話に出た。
「どうしたの?珍しいじゃんそっちから電話かけてくるなんてさ」
先に断っておくと、男は女のことが好きである。いわゆる片思いというやつだ。
「うん、ちょっと話しておきたいことがあってさ」
そういうと女はすぐさま電話をかけたことを後悔した。
彼は声のトーンから、酔っ払っていることが明白だったからである。
素面の時にするような話を今してもいいものか思案しながら、それでもいきなり本題に入るのは彼に生涯に渡って残るであろう傷をつけると考え、たわいもない話から彼の様子を伺うことにした。
「なに、またお酒飲んでんの?」
「酒は一人で飲むから粋なものなんだ、もちろん誰かと電話をしながら飲むのも楽しいけど」
そういって男は愛飲している日本酒をすする。
ふと外に目をやると、天気予報通りの大雪が降っていた。
「おおすごい、雪だ」
「え、雪降ってんの?」
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