栃木駅

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栃木駅

 村木は愕然とした。東武日光線もふれあいバスも停まっている。  仕方ない!栃木から新栃木まで歩いて帰ろう!  武平作ってゆー菓子屋の屋根からドサドサ雪が落ちてくる。  ココのだんごは美味い。  信号の青色が吹雪の中でボヤーっとしててキレイだ。関門橋を渡る。すぐ近くには開明橋がある。巴波(ウズマ)川がカチカチに凍っている。 『寒中水泳でもする?』  亡くなった恭子だったらいいそうだ。  恭子はスキーに行ったときバス事故で亡くなった。  結婚まで約束していたのだ。  雪に煙る蔵の街大通り、よく恭子と歩いたな?  古里家が見えてきた。何と!創業は嘉永6年だ。ここの和菓子もうまい。  北海道産の小豆を使っているもの。  栃木は和菓子が多いな?  帰って栃テレでもみようかな?『雷様剣士ダイジ』は今日はやってないな。  ちゃんと留守番しているかな?来年で小学2年生だ。  右手には郵便局、左手にはカフェなずなだ。午後6時半には閉店してしまう。    吐く息がホワホワ白い。  火葬場から上る煙を思い出し泣き出しそうになる。  しばらく進むと道端にマネキンみたいなものが横たわっていた。  女の死体だ。  死後硬直が既にはじまりマネキンみたくなってる。  「ウギャァァァァァッ!」  村木はありったけの悲鳴を上げた。  女の背中には見慣れないものが刺さっていた。それは弓矢だ。  滅茶苦茶寒い!民家に逃げ込んだ。  凍死しちまいそうだ。  優しいおばちゃんでほうじ茶を淹れてくれた。 「寒かったわねぇ?」  お風呂にも入らしてもらった。凍傷を起こしており足先が真っ赤になっていた。少しずつ感覚が戻っていく。  風呂から上がりおばちゃんに経緯を話して警察に通報した。  もうあの女は死んでいるんだ、死人より死にかかっている自分の方が優先だ。  パトカーのサイレンが聞こえてきた。  チャイムが鳴った。 「自分は東武署に勤めていた獄門だ」  ゴーグルをしたゴリラみたいな刑事がおかしな自己紹介をした。え?刑事であって刑事じゃないってことか?  獄門の捜査によって犯人は弓道に関係した人間だと決定した。 「ナイフやロープよりは簡単な事件ですね?」  村木は言った。  
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