プロローグ

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 中学の卒業式終了後、卒業生達はゆっくりと体育館から外へ出た。 まだまだ肌寒い春先の学校で、 彼には複雑な心境が2つあった。    今回の卒業式は、かなり泣いたかも知れない。男なのに女々しく、心の中で情けないと我ながらに思った。中学での出会いや思い出、これらを喚起させる写真の数々。ずっとこのままでいたい……卒業したくないと式の間、幾度となく思っただろうか。これが1つ目だった。 彼の気持ちを無視するかのように時間は勝手に過ぎていく。  体育館を出ると、沢山の卒業生達が笑顔で(あふ)れている。 校庭や校門には桜の蕾が一気に膨らみ始め、来週辺りには開花しそうだった。    卒業証書が入った丸筒を保護者にすぐに渡す生徒もいれば、右腕に顔を覆い、嗚咽(おえつ)する生徒などもいた。   気持ちは痛いほど理解できると彼は思いながら、友達がいる校庭へ真っ直ぐに向かう。  彼が同級生数人と会話をしていると、写真を撮りましょうと声が聞こえてくる。 卒業後と言えば、これだろうと思うほどの定番中の定番だ。    彼はどちらかと言えば背が高いほうなので後ろに並び、ニコッと笑いピースをしながら撮影準備を整える。 同級生の母親たちがカメラを構え、そして順番に撮る。  ちゃんと写っただろうかと、心配になる。鏡が手元にないため、さっき泣いた跡が残ってないかと気になった。 例えば、顔の頬辺りがまるでサクランボのように赤いとかね。    ただ、そんなに気にすることじゃない。もっと…それ以上に考慮しなければならないことが彼にはある。
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