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終雪
昨日から降り続く雪はやまずに、僕しか居なくなったこの貧乏長屋の半分の高さまで積もっている。
隣のお婆ちゃんの葬儀は先週だ。
身寄りのないお婆ちゃんは木や花をいじるのが好きで樹木葬にした。
「若いのに、こんな貧乏長屋で一人暮らしは辛かろうねぇ」と心配そうに話しては煮物をくれた。
それから、唯一歩いて行ける場所にあったスーパーが潰れたのは先月だ。
屋根が軋む。
僕は窓から屋根によじ登る。これくらいは簡単だ。
屋根の上に立つと世界は真っ白だった。
汚いものを隠すのはいつも白だ。そして雪解け水は全てを流す。
すでに辺りは暗いのに、街灯の一つすら見当たらない。
ここは別に嫌いではなかった。あまりに浅はかで愛おしかった。
何が原因だったのか、気づいていた人間は一握りだ。
「僕は核」
そう言ったらお婆ちゃんはカクくん、と僕を呼んだ。
僕は核。
世界の、宇宙の、精神の核。
たくさんの惑星で生きた。
その中でも特別に幼くて我が儘で、浅はかな星が今日、終わる。
この雪はやまない。
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