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白い息を吐き出しながら、郵便配達員が扉に備え付けられた新聞受けへ一通の封筒を投げ入れた。
赤褐色の錆止めが塗装の剥がれた扉から顔を覗かせる。
建物の壁には無数の亀裂が入っており、お世辞にもいい状態の家だとは思えない。
数年前に起きた地震の影響で、この建物の寿命はさらに短くなったのだろう。
郵便配達員は特に気にした様子もなく、自身の乗ってきたバイクにまたがると、次の配達先へと走り去っていった。
家賃2万5千円。六畳一間でベランダに風呂、トイレ、キッチンと揃っている。
年季の入った外見に比べ内装は新しく、IHまで完備されてあった。
朝倉 恭一は新聞受けへ届いた物を取りに、パソコンの前から立ち上がる。
「水道料金か……?」
ボサボサの髪の毛を掻き分けて、新聞受けから郵便で届いた物を手に取る。
それは一通の手紙が入った封筒だった。
赤い文字で書かれた手紙には同窓会が開かれること。そして、参加を促すように色々工夫したのだろう、卒業アルバムから切り取ったであろう写真が数枚貼り付けられていた。
「赤い文字? 気持ち悪いな……」
開催日は2週間後の昼12時から夜17時の解散となっている。
時間帯は子供のいる家庭を考えてのものだろう。
恭一の住む場所より車で一時間ほどの距離で着く山奥の小さな旅館を、その時間だけ借りきってのものらしい。
パソコンの前まで戻った恭一は、机の上へ封筒を置くとキーボードへ手を乗せた。
パソコンの画面には書きかけの小説だろう文字の羅列されたものが表示され、机の上には先ほど置かれた封筒の他に開かれたままのノートがいくつも重なりあっていた。
1番上にある、最近開いたであろうノートには、ペンで黒く塗り潰され、小説の続きに行き詰まりを感じているのをうかがわせる。
キーボードから両手を頭へもっていきガサガサと無造作にかきむしると、ため息を吐いた。
「……ネタになるか」
もう一度、同窓会のお誘いの手紙を手に取ると、内容に目を通し始めた。
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