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振り返ると、ベッドの傍にティーカップを載せたソーサーを手にしてウルバーノが立っていた。真っ白な寝間着のうえに厚手のガウンを着た彼は、癖のない蜂蜜色の髪が少しばかり乱れていた。
「ウルバーノ様……?」
「うん」
「ここは……」
ぼんやりと夫の顔を見上げながらヴィルジニアが訊ねると、ウルバーノは微かに笑ってベッドの縁に腰掛けた。
「僕の寝室」
さらりと告げられた答えに、ヴィルジニアは眼を瞬かせた。
ウルバーノひとりのための寝室があったなんて、知らなかった。ヴィルジニアが今まで使っていたあの部屋だけが、夫婦の寝室なのだと思っていた。
「そう……ですの……」
ヴィルジニアがちからなくそう呟くと、ウルバーノは困ったように薄く笑って、淹れたての紅茶が香るティーカップを差し出した。温かい紅茶をすするヴィルジニアを見守りながら、彼は抑揚のない声で言った。
「きみには教えていなかったけど、本当は毎晩帰ってきてたんだ。でも、一緒に寝たら酷いことをしてしまいそうだったから……」
「わたくしの……ために……?」
「うん」
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