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「一口だけ。」
"ね!"と押してくる雄太郎に負けて、お客さんがいない間を狙って口を開ける。
雄太郎の視線が、私の口元に注がれる。
失敗した。
リップクリームでも塗っておけばよかった。
指の間にあったチョコは無事、私の口の中に放り込まれ、甘さと苦さが広がる。
あっ、なんかこの感じ。
恋に似ている。
「亜美香?」
「ん?」
目の前にいる雄太郎が、不信な目で見てくる。
「ああ、ごめんごめん。有難う。」
我に戻って、無意味にチョコレートを並べる振りをする。
「じゃ、また。」
「うん。」
雄太郎が遠くへ行くと、パートのおばさんに、腕をツンツンされた。
「いいねぇ、若いって。」
「えっ?」
「チョコ、食べさせてくれるなんてさ。」
ハハハと、笑って見せた。
「彼氏?」
「いえ、同じ学校の同級生です。」
「それにしちゃあ、仲いいじゃない。」
「そうですか?」
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