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雪いろの更紗目鏡
クリスマスに雪が降るなんて、めずらしい。
ホワイトクリスマスなんて素敵、と思いたいけど、あいにく、私は冷たい風が吹きこんでくる駅のベンチに座っていた。
駅のホームに屋根はあっても、気まぐれな風は止む気配のない白い雪を足元にまで運んでくる。空はすっかり暗くなり、濡れたブーツは冷たくて、爪先はジンジン、段々冷たさが苦痛になってきていた。
そんな私の目の前を、短くはない時間の間に、たくさんのカップルが通り過ぎてゆく。幸せそうに手をつないだり、腕を組んだり、つなぎあっていない腕に、真新しいプレゼントの紙袋や、ケーキの箱を下げていたりする。
雪の寒さなんか関係ない。ううん。雪が降って寒いからこそ、お互いの体を寄せあえる、と喜んでいるかのように思える。目の前を通りすぎる恋人たちを少しうらやましいとは思うけど、嫉妬はしない。もうすぐ、私も彼らのように、大事な人と腕を組み、体温を分け合って、大事な人とクリスマスを過ごす事ができるんだから。
問題は、その相手がまだ来ていない事だけだった。
「早く来ないかなぁ……」
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