1.

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 吹きすさぶ雪があたりを白く染め、つま先から寒さがこみ上げてくる。  僕は車の暖房を強め、白い息を吐いた。  その日は、大館市役所に勤めて最初の冬で、アメッコ市を明日に控えた夜だった。  アメッコ市は、秋田県の北部、大館市で毎年二月の第二土曜日と日曜日に行われる小正月行事で、木の枝に色とりどりの飴が飾り付けられ、多くの飴の露店が立ち並ぶお祭りだ。  この日に飴を買うと風邪をひかないと言われており、無病息災を祈って毎年十万人以上の人が飴を買おうと訪れるのだという。  近道を通って帰宅しようと、車のヘッドライトの明かりだけを頼りに走っていると、急に小さな人影が飛び出してきた。思わずブレーキを踏む。 「大丈夫かい?」  人を轢いたのではと思い、慌てて車の外に出ると、そこにいたのは十歳くらいの男の子だった。  細い目に、色白の肌。ぽっちゃりとした頬は赤く染まっている。いかにも田舎の子供といった風体だが、よく見ると愛嬌があって可愛いと言えなくもない。 「オラは大丈夫だ。それより、源三じいさんが大変なんだ」  聞き覚えのある名前だった。  僕は少年に促されるがままに田んぼの真ん中にある一軒家へと急いだ。   見ると、玄関先で白いひげを蓄えた見覚えのある老人が倒れている。飴職人の源三じいさんだ。この老人を市の広報で取り上げるため少し前に取材したばかりだった。すると、この子供は源三さんの孫なのだろうか。 「お父さんとお母さんは?」  首を横に振る少年。  源三さんの手を取る。脈はあるようだ。 「救急車は?」  少年はまたしても首を横に振る。小さな子供だし、動転してそこまで気が回らなかったのかもしれない。  僕は病院に電話をかけた。  だが病院によると、吹雪による視界不良と渋滞により、ここに来るまでに二時間ほどかかるという。さらには雪で道幅が狭くなっており、狭い路地には入れないのだという。 「僕の車で源三さんを病院まで運ぼう。その方が早そうだ。えーっと、きみ、名前は?」 「小太郎だ」 「よし、小太郎。一緒に源三さんを運ぶぞ」  こうして僕たちは、協力して家の前に停めた車へと源三さんを運び込むこととなった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!