0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「よいしょ、よいしょ」
源三さんをなんとか車に運び込む。玄関の前に積もった雪の上、大人の足跡と子供の足跡、二つの足跡が仲良く並んだ。
「よし、行くぞ」
僕は病院まで車を飛ばした。後部座席では、小太郎は源三さんに寄り添ってすやすやと寝息を立て始めた。
吹雪は、どんどん強くなってくる。
暗闇の中、フロントガラスにどんどんと向かってくる白い雪を、冬用ワイパーが左右に寄せていく。僕は源三さんを取材したときのことを思い出していた。
「今年は暖冬ですね。アメッコ市の日も張れるでしょうね」
その日は、今日の大雪が嘘みたいに晴れた日で、積もった雪が解け、地面が見えるほど暖かかった。
「晴れるものかね」
源三さんは、飴を切りながら渋い顔をした。
「アメッコ市の日は、雪と相場が決まってんだ」
「そうなんですか?」
就職とともにここに越してきた、殆どよそ者と言っていい僕に源三さんは教えてくれる。
「アメッコ市に飴を食べると風邪をひかねぇっつう話は聞いたことがあるな?」
「はい」
源三さんによると、その他にも、この地には白髭大神伝説という伝説が伝えられているのだという。
伝説によると、毎年アメッコ市の日に、白髭大神という神様が近くの山から下りてきて飴を買い求めるのだが、彼が帰る際に、その足跡を消すため吹雪を起こすのだという。そのため、アメッコ市の開催期間中はいつも雪になるのだそうだ。
「言い伝え通り、本当に吹雪いたな」
そんなことを考えているうちに、車は病院にたどり着いた。
病院の受付に事情を説明する。担架で運ばれていく源三さん。
「ご家族の方は?」
「あ、お孫さんが一人」
僕は言いかけた。が、気が付くとそこには小太郎の姿は無かった。
車の中にも、病院の中にもいない。綺麗さっぱり姿を消してしまったのだ。
ほどなくして、源三じいさんが意識を取り戻した。
もう少し発見が遅れていたら危なかったそうだ。
「小太郎が知らせてくれたんですよ」
僕の言葉に、源三さんは不思議そうな顔をする。
病院からの知らせを受けて駆けつけた、近所に住む娘夫婦も不思議そうな顔をする。
彼らが言うには、小太郎という名前の孫は居ないのだという。
最初のコメントを投稿しよう!