手袋

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手袋

「ゆきうさぎ、つくりたいな」 ゆきんこさんは雪だるまでもかまくらでも作れる大雪のなか、 小さな可愛いゆきうさぎを作りたいと言った。 「どうして?  私とカイがいるんだから、もっと大きなもの作ったり、雪投げして遊ぶことだってできるよ?」 「ううん。ゆきうさぎがいいの。葉っぱのおみみと赤い実のお目目。 おててにのるくらいの小さい子をたくさんたくさん作りたいの。」 「たくさんってどのくらい?」 ゆきんこさんはしばらく考えるそぶりをしてからゆっくり答えた。 「ええっとね、35羽つくりたいな。あと、雪だるまを1つ」 ずいぶん具体的な数が出てきたことに驚いた。 「なんで35羽と雪だるまが1つなんだ?」 カイも不思議におもったのか、聞いたけど、ゆきんこさんは答えない。 「ないしょなの。全部お話ししたら、神様におこられちゃう。 全部なかったことになっちゃうから。言えないの。」 よくわからないことを言うばかり。 仕方ないので、私は校庭の隅に歩きはじめた。 うちの学校は正月飾りを先生がいける伝統があるので、 校庭の片隅に立派ななんてんを育てているのだ。 「赤い実と葉っぱとってくるから、ゆきんこさんとカイはゆきうさぎ作ってて。」 そう言いながら歩き始めると、後ろから足音もさせず、ゆきんこさんがついてきた。 そっと冷たい手を私の手に滑り込ませると、ニコニコ顔で 「私も赤い実と葉っぱをとりたい!おにいちゃん、先にゆきうさぎ作っててね」 よく見るとゆきんこさんの手は赤くなっていた。 (ゆきのおばけなのに変なの。寒いのかな) 一度気が付いてしまうと、放っておけない性分なのだ。 私はつけていた手袋を外してゆきんこさんの小さな手にはめてあげた。 「これはカイ。おにいちゃんの手袋だから、大切につかってね」 ゆきんこさんは大きな目をさらに大きくして、手袋のはまった両手をじっと見つめた。 そして、手袋の暖かさをたしかめるように、ホホをつつんで笑ってくれた。 「あったかあい。手袋ってはじめて。手袋っておおきいねえ」 スキップをしながら私の周りをくるくる回る。 「じゃあ、赤い実と葉っぱ、取りに行こうか」 私が言うと、ブカブカで指先が折れ曲がった手袋をつけた手をそっと握って歩き出した。
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