【引】

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【引】

誰かに腕を引かれた気がした。 僕は思わず振り向き辺りを見渡す。白い、無機質な街灯に照らされ先ほど僕が歩いていた道しか見えない。変だな、と首を捻って僕はもう一度歩き出す。 今日は突然「鍋しようぜ!」と言われ、友人の家に遊びに行っていた。「突然」というところがいかにも学生らしい。ちょうど米も尽きたところだし渡りに船だとほいほい付いて行けばこんな時間だ。四人五人集まれば、そりゃあ話にも華が咲く。男ばかりのむさくるしい空間で「華」などと表現するのはいささか違和感があるが、実際そうだったのだから仕方ない。結局片づけもそこそこにだらだらと話し込んでいたら、日付が変わってしまっていた。 ほかの奴らは自宅生であるので、終電を逃しそのまま泊まり込むことになったが下宿生である僕は一旦帰ることにした。じゃあな、と雑魚寝を始めた連中に声をかけたのが二十分前。しかし今は遠い昔の事のように思える。 夜の道は静かだ。     
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