0人が本棚に入れています
本棚に追加
アスファルトの道には所々、街灯が点在し完全な暗闇というわけではない。ただ人通りは少なく、今日はすれ違う人も全くいなかった。自分が地面を踏む音だけが異様に高く聞こえる。僕はマフラーを巻きなおした。鍋で暖まった体温はとうの昔に冷えていた。吐く息は白く、街灯のぼやけた光と共に淡く夜へ溶けていく。
曲がり角にある公園を通る時、“それ”はきた。
ぐい、と後ろに引かれる感触。あまり強くない。よろけるようなものではなく、何かが引っかかってしまったような、何かつっかえてしまったような、そんな感触。
身体を確認してみても、特に変わりはない。リュックの紐かとも思ったが、ただ僕の両脇にぶらさがってじっとしている。振り返ってみても誰もいるはずがない。アスファルトを青白い街灯が静かに照らしている。気のせいか、それにしては厭にはっきりとした感触だった。再び歩き出すとまたぐい、と引っ張られる。
今度ははっきりとしていた。二度目ともなるとさすがに気味が悪い。
お腹の中心がじんわりと冷えてゆき、マフラーを巻いているのに首元がどうも心細くなる。ダッフルコートの前を抑えてももう暖まらない。その時の僕は氷を飲み込んだように、内臓へずしりとした重みを感じていた。
最初のコメントを投稿しよう!