【引】

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*** 僕は次の日、ある人に電話をした。ある人、というのは僕の幼馴染である「亜土川あいり」。こういう怪談系の話にめっぽう強い。 あいりは僕の話をふんふんと暫く聞いた後、高い笑い声を出した。 『えー! 多々家くん羨ましいなぁ。あたしもそんな体験したい!』 そう言うと思った。予想どおりの返答をもらって僕は満足だった。今はこの能天気さが必要なのだ。 「実際起こったらなかなか怖いよ」 『暗闇の中でしょ? 多々家くん、暗いのだけは駄目だもんね』 「馬鹿。こっちは街灯があって夜道でも明るいんだよ」 『えーそれでビビッて帰ってきたの? 多々家くんかっこ悪』 あいりは僕が幼稚園の頃から知っているので、全く遠慮がない。まぁそれは反対の立場でもいえることだけども。 『でもさぁ、それ正解だよ。ちゃんと帰ってこれてよかったね』 「え?」 電話口からあいりの『ん?』という声が聞こえた。僕が返答を待って沈黙を守っていると、向こうからため息が聞こえる。 『なに?』 「あ、いや、何が正解だったのかと思って」 『すぐにその場を離れたこと。気があると思われたら大変だもんね』 急に内臓へ石を放り投げられたような気分だった。     
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