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『今は脅威ではないといっても、昔の人にとってはそうだったんだ。社が建てられるくらいならそれなりの脅威だ。その町の人々の信仰を集め、畏怖の念を集めていた脅威だ。小さな社はそれを集め、集合させる場所だよ。村の人々の全身全霊を込めた念、長年溜め込んだその念って今は一体どこに消えたんだろうね』
秒針が鳴り響いていた。僕の部屋にあるアナログ時計だ。時刻はまた、あの社の前を通った時刻に近付いていた。
『その社が何を封じ込めているのかはあたしにはわからない。もしかしたら、普通にいいものかもしれないし。でも、存在するってことは何かしらの理由があるんだよ。そこに存在する理由、建てなければならなかった理由が』
「存在する……理由」
『特に多々家くんの街はそういう場所が多い。無理やり国が道を整備した場所だから、何を潰して何を消したかなんてわからない。覚えておくんだ、君はそういう街にいるんだよ』
あいりの言葉が僕にのしかかる。急に街を歩くのが不安になってきた。
「じゃあ僕はどうすればいいんだ」
『そうだね、別に気にしなくていいんじゃない』
「はぁ? 散々あんなこと言っといてか!」
『プラシーボプラシーボ。気にすると怖くなるよ、そゆこと』
一気に力が抜けた、真剣になった僕が馬鹿みたいだ。
『あ、そいやさ。その社って綺麗だった?』
「綺麗? あ、いやちゃんと見てはないけど」
僕は思い出す。苔のむした屋根に、傷の入った柱。
「あまり保存状態がいいとは言えないと思う」
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