深夜の告白

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「頻繁にやりとりしていたの?」 「いや、最初はそうでもなかったです。初めの頃は施術の前後にやりとりがあるくらいで。そのうち、『新しい髪型に合わせて服買ったんですけど、どうですか?』みたいな施術に直接関係のない連絡が来るようになって、気がついたら増えてましたね。それでも、やりとりだけならまだ良かったんですけど、ある時、小林さんが自分に好意を抱いていることに気づいて、そこから少しややこしいことになりました」  これは非常に厄介な間柄である。相手は「客」という仮面をかぶってヤナに会いに来ることは永遠に可能だ。店員と客、という関係は本来平等な立場であるはずなのだが、どうしても客優位になってしまい、こういう問題をこじらせる原因となる。 「ストレートに告白されたわけじゃなかったんで曖昧にはぐらかしてたんですけど、そのうち「休日に会って欲しい」とか「映画を一緒に観に行かないか」って、店以外での面会を要求してくるようになってきて。そんなこと誰にも相談できなくて一人で悩んだ挙げ句、一度だけ一緒に映画を観に行きました」 「ああ」  思わず漏らした私の心の声に、ヤナも失笑する。 「今のオレだったら絶対に行ってないですよ。映画の帰り、食事でも行きませんかって誘われたんですけどそこはさすがに断りました。正直、仕事でクタクタだから休日はできるだけ身体休めたかったし、自分に気があるってわかってるのにそれ以上はどうかと思って。そこからちょっとマズイと思い始めたんで、おそらく態度に出ていたんだと思います。自分じゃそんなつもりはなかったんですけど、小林さんに『最近なんか冷たいですね』って言われました。それに対して咄嗟に『最近自分のお客さんが増えてきて、忙しくなって』ってありきたりな嘘をついたんです。実際そうだったんで、まるっきり嘘ってことでもなかったんですけど」
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