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お客様のお見送りを終えて店内に戻ると、柳沢が担当するブースの様子が何やらおかしい。鏡越しのお客様の表情を見て、すぐにトラブルだとわかった。柳沢は明らかにおもしろくない顔で立っていて、その横では店長の川島が謝っているようだ。相手は新規客で、ネット予約サイト経由での来店である。
うちの店――Hair space:ambientは地域に三店舗あって、その中でも一号店であるここ、けやき通り店は店舗面積も広く、スタイリストも五人いる。柳沢は先月から入った新人で、美容師歴としては六年ほどだと言っていた。新顔は常連客がつくまでには時間が掛かるので、特に指名がないお客様は柳沢が担当することになっている。今回もおそらく指名なしでの予約だったのだろう。ネット予約サイトにはスタイリストの顔写真も載っているから、それを見て自分の好みである柳沢を選んだという可能性もあるが、もしそうだとしたらこんなトラブルにはなっていないかもしれない。
アシスタントのノリちゃんがブース周りを片付け終えたのを確認し、私は次のお客様を迎える準備をしながら聞き耳を立てる。
「すべてお客様のご希望で行わせていただきますので。申し訳ございません」
川島が苦い顔で頭を下げる。
「他の人いないんですか? 私、もうこの人に髪を触ってもらう気がしないんだけど」
お客様はかなりご立腹な様子だ。若い子でクレームを言ってくるケースはあまり多くないけれど、この方は自己主張をしっかりと持っているのだろう。
「それでは、本日は私が担当させていただくというのはいかがでしょうか」
川島がそう言ってもう一度眉尻を下げた時、ノリちゃんがコツコツと靴を鳴らしてこちらに近づく。
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