雪うさぎ

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雪うさぎ

 しんしんと舞う粉雪が君の肩に降りる。  「初雪だね」  空を見上げながら君は言った。視線をたどると月は灰色の雪雲に隠されている。地面に積もった雪が光を反射して、夜でも君の顔がよく見える。  「明日になったら溶けちゃうのかな」  足元の雪を横に払うように軽く蹴ってみる。薄く膜を張るように積もった雪は、明日の朝には儚げに溶けることだろう。  「それじゃさ、折角だし雪うさぎでも作ろうよ」  彼女は屈み込むと、わずかばかりに積もっている雪を手のひらで囲むように集め始めた。雪に触れている手が冷えて、指先が赤くなっている。次の雪が降るまでには暖い手袋をプレゼントしようと考える。  そう考えていると、彼女はどこからか摘んできた2枚の葉を耳、赤い木の実を目の位置に埋めている。  「完成! どうどう?」  彼女は出来上がった雪うさぎを見せてきた。両手で差し出した手の上に可愛らしい雪うさぎが乗っかっている。  自分の胸元に手を戻すとしんみりとした様子でつぶやいた。  「うさぎって鳴かないんだって」   どこかで聞いたことのある噂だ。  「大きな耳があるのに、自分たちで楽しくおしゃべりはできないんだね。ひとりぼっちだと淋しくて死んじゃうのに」  手に持った雪うさぎを地面に置くと、また雪を集め始める彼女。  「ひとりぼっちだと明日まで保たないかもしれないからお友達」  一匹目の横に、百円玉ほどの感覚を開けて二匹目の雪うさぎが作られた。一匹目の雪うさぎよりも耳の間隔が広く、大人しそうな印象だ。隣り合う二匹の雪うさぎの表情は、どこか嬉しそうにも見える。  「これで大丈夫」  彼女は冷えた手を擦り、吐息で手を温めると右手を差し出してきた。  「帰ろう?」  手を握り返すと、彼女が嬉しそうに笑う。  「手、あったかいね」  二匹の雪うさぎを背に歩き出す。家に帰ろう。  古いけども温かい、朝が来ても溶けることのない、彼女との巣へ。  ーーーー翌朝、雪うさぎを確認しに行くと、少しだけ空いていた二匹の隙間は、寄り添うようにピッタリと埋まっていた。
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