4章

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「おはよう姫川さん。」 「笹原くんおはよう。」 あ~…可愛い…。文化祭で晴れて親密度を飛躍的に上げることに成功した俺はスムーズに挨拶できている。 昨日結局姫川さんに告白しなかったしお店一緒に回るのを誘ったことでもう俺の気持ちを姫川さんに悟られているのではと思うと恥ずかしくて死ねる。 そんな複雑な心中を一切悟っていないかの如く天使の笑顔でにこにこと笑っている姫川さんに癒されている俺だが、心はずっと沈んでいる。 その理由となっている人物を視線の先に捉えるが、女子数人に囲まれていて顔が見えない。 俺はそんな彼を横目に自分の席に着く。 ホームルームが始まり女子がはけたところで、意を決して肩を叩く。 「蒼、おはよ」 なんとか平静を装って話しかけた。 「…………………。」 俺は、実はというと、未だに感情の整理すらついていない。 姫川さんのことをずっと好きだと思っていたから、俺のことが好きという事実が未だに信じられないのだ。 でも心臓はずっとバクバクしている。頭では受け入れられなくても、体は何かしらの信号を送っている。 それは焦りなのか、動揺なのか、拒絶なのか、俺には区別がつかない。 勿論蒼のことは大好きだ。悪態はついてもなんだかんだ幼馴染であり親友だ。嫌いなわけがない。 でも、そういう意味での好きではない。 蒼と付き合うことを一瞬考えてみたが、普通に無理だった。 男同士でデートしても普通に遊んでるのと変わらないし、キスはできるにしてもセックスはできない。子供は産まれないし、それ以前に家族と周りがなんて思うか、考えただけで怖い。 蒼の気持ちに応えることはどう考えても無理だった。 でも俺は、今までと変わらず蒼と友達でいたい。 蒼のためじゃなくて、俺がそうしたいんだ。 祈るように蒼の反応を待つ。 気まずそうに返事をする? それとも何もなかったかのように振る舞う? それとも……… 俺の嫌いな沈黙が流れる。 結局、蒼が気まずそうに返事をすることも、あっけらかんと振る舞うことも、その背中がこちらに振り返ることもなかった。 昨日蒼の言った「絶交」の言葉が、頭の中で繰り返される。 俺の愚かな奢りが、この結果を招いた。 意味なんてまるで理解していなかったんだ。心のどこかで 「絶交って言われたけどなんとかなる」 って思ってた。 俺は蒼に完全に無視された。 それが全ての意味を物語っていた。
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