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バレンタインは大っ嫌いだ。
そもそも甘いものが苦手だとか、余計な出費になるだとか、周りに気を遣わなきゃいけないだとか、理由はたくさんあるけれど。
「見てみ! 俺やっぱりモテ期来てるって!」
何よりこの、バカみたいに嬉しそうな幼馴染みを見るのが、毎年、毎年、嫌で嫌で仕方ない。
「これクラスの女子からで、あぁこっちも、これがこの前話したマネージャーの子、あっ、あとなんか先輩にももらった! しかも手作り、多分!」
呆れるほどキラッキラした目で、見るからにほっぺ赤くして、いつにも増して大きな声で、私にその「愛の束」をずいずい見せつけてくる。その顔に、毎年腹が立って仕方ない。
「そんなん、義理でしょ」
わざとつっけんどんに返したところで、少しも悲しそうにしないのがまた腹立たしかった。「食えばみんな一緒だべ」なんて言いながら、毎年大事に大事に時間をかけて食べて、そして時間をかけてお返しを選んでるのも知っている。そういうところが、モテる要因なのも知っている。
そして、それを越えるほどに鈍感なのも知っている。
「そういえばお前、今年も誰にも渡さんかったの? まじでそういうの無縁だもんね、毎年」
たとえば。そうやって、無意識に、毒を吐くところ。
「あげないよ」
言葉尻が震えそうになったのは、どうにか隠し切れただろうか。もったいねぇ~、と笑う幼馴染みの横顔は、多分いつも通りのように見えた。
バレンタインは大っ嫌いだ。
そもそも甘いものが苦手だとか、余計な出費になるだとか、周りに気を遣わなきゃいけないだとか、理由はたくさんあるけれど。
「私がチョコとか、似合わないでしょ」
何より、目の前のこいつに渡せなかったチョコレートを、毎年毎年、一人で食べなきゃいけないあの時間が。何より、大っ嫌いだ。
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