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降ってきた。
大きな綿の塊が空からぽんぽんと落ちている。
なんか......可愛いなぁ。
あの一つ一つを瓶に詰めて飾っておけないだろうか。
ベランダから手を伸ばして塊を取ろうとするけど、なかなか難しい。
でも、ちょっと楽しい。
「あはは、降ってきたね、うさぎの尻尾みたいだ。」
カラカラカラと窓を開けてベランダに出てきた同僚は楽しそうに白い息を吐きながら言う。
何がうさぎの尻尾よ。
ロマンチストか!
「どうしたの?早く帰らないと電車止まるかもよ?」
さっきまでの楽しい気分は消え、少し前までの嫌な気持ちがぶり返してくる。
こいつ、分かってるのかな。
「え、泊まっちゃダメなの?」
焦げ茶色の目をぱちぱちしながら、なんで?と言わんばかりに聞いてくる。
はあ、こいつってば!
ちょっとイケメンで身長も高いからってどこの女もあんたを泊めると思ったら大間違いだ、バカやろう。
「あのさー、今回の事はなかった事にしよう?お互い会社で気まずいでしょ?私も明日から普通にするし。連休も終わるからさっさと帰ってくれる?」
そう、一昨日の金曜の飲み会で私は日頃の疲れが溜まってか珍しく泥酔した。
元々仲の良い同僚のこいつは、私を送ると言って二次会を断りタクシーで送ってくれた。
そして、こいつはオオカミになった。
送り狼に。
気持ち悪い事に私は記憶が飛んでない。
本当の本当に最悪な事に、途中から私も抵抗すらせず受け入れてたように思える。
そして、土曜もこいつは私の家に泊まった。
今に至る。
最悪だ。同僚だし、好きだと思った事もない。
こいつは身長180センチの部活は陸上だったとかで、身体は生唾ものに良かった。
小柄な私を大きな身体で包み込んで抱く......やめやめ!思い出すのやめー!
「はあ、ったく、帰ってよ。」
「でも雪降ってきちゃったし暗いし、てかベランダ風邪引くから中入ろう?」
スッと腕を引かれ、咄嗟に振り払った。
なんか、ちょっとこれ以上は......
「あ、ごめん。でももう気軽に触らないで?
私、あなたとは......無理だから。」
目、見れない。
多分また真っ直ぐにジッと見つめられてるんだろうけど、私はその目を見返せない。
「佐々木部長?」
「え......?」
まさか、どうして?
「知ってるよ、ずっと見てた。好きなんだ。」
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