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「え?」
何て言った?
「好きじゃないとこんなにしつこく家に居たりしない。俺、言っとくけど送り狼とか始めてだから、いつもしてる訳じゃない。
......あの日身体を許してくれたから、思い上がりも覚悟で伝えた。最初は快楽目的でも良いから繋ぎ止めたくて......」
何言っての?この人、快楽って......
「あ、あんた......バカ?快楽って何言ってんの!馬鹿にしないで、ちょっと良かったからって好きな人を忘れたりしない!」
忘れられるなら......私だって藁にも縋るわよ。
「ごめん。......分かってる、でも!オレならすぐ幸せにしてやれる。週末の度にデートも行ける、困った事があれば駆けつけてやれる。
佐々木部長は......無理だろ?」
「っ望んでないわよ!早く出てって!」
同僚をベランダから部屋に押し込むとカーテンを閉めて、窓も閉めた。寒い、暗い。けど、この涙は見せられない。
私だって......。
佐々木部長と私は自然とそうなった。
構ってくれるちょうど良い大人の男、くらいにしか思ってなかった。お休みの日は1人が気楽だったし、イケナイ関係がスリリングで楽しかった。
最低なのはずっと前から分かってた。
やめようと思ったら遊びが本物なってしまった、本当にタチが悪かった。
部長はそんな私の気持ちに気付いたんだろうな。
全っ然連絡なくなっちゃった。めんどくさいよね。
あ、ベランダの手すりに雪が積もっている。
冷たっ
さっきは掴めなかったのに、積もるとこんなにたくさん掬える。こんなに簡単に雪に触れてる。
「私、最低だったな。こんな女だれが好きになるかっての。」
「だから、オレが好きだって。」
「ひゃ、あ、まだ帰ってなかったの?本当に電車止まるよ?」
同僚は呆れ顔で窓枠に身体を預けてこちらを見ている。
「なあ、言ってんじゃん。好きなんだよ。ずっと前から、部長とどうこうなる前も最中も今もお前が好きだ。オレのものになってよ。」
大きな腕で同僚の胸に抱き寄せられる、払う事は難しそうだ。
「私のどこがそんなに好きかなぁ......こんなに最低な女なんだよ?甘えさせてくれたからって簡単に楽な方に進むなんて、出来ないでしょ。
......じゃあ、好きになったら振ってくれない?」
洗濯してた同僚の服からは私のお気に入りの柔軟剤の匂いがしていた。
「振らない。一生振らない。」
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