もどきのサンタクロース

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―雪の町― ある診療所から抜け出した男がいた。 男は、その診療所の「患者」だった。 患者の男は、大人なのに幼稚。 誰かに思いを伝えようとしても、舌を噛んで会話遮断。 自分の言葉で足りなければ、長い時間をかけて絵を描いた。 それは「童心に帰る絵」 だからいつまでもみんなからは幼稚あつかい。 あぶないから、付き人つき。 患者の男は、雪の絨毯に足跡を残しながら呟いた。 「自分は幸せだけど、誰かを幸せにしたことは一度もない」 患者の男の眼が、涙でうるむ。 「苦労ばかりかけた」 患者の男は、裏路地に座り込むと、カバンにつもった雪を手で払い、中から灰色の画用紙を取り出した。 患者の男は、黒いクレヨンで自分を描いた。 そして、そこに肌色と赤を足す。 白い口ひげも忘れない。 おじいちゃんになるまで負けないように。 もう少しで完成。 患者の男は、完成した絵を いじわるな神さまに見せようとした。 すると、誰かがその絵を取り上げて言った。 「誰かを幸せにするのは、簡単な事だ、 幸せにしたと思い込めばいい」 見上げると、「黒いローブの男」が、患者の男の事を見下ろしていた。 その手には「分厚い本」 「お前が描いたその下手くそな絵は、どこかの病的な大富豪の老人の絵だ、 そいつは、金と薬の力を使って、誰かを幸せにしたと思い込んでいるが、 それは違う、 私から見れば、刺青を刻まれた罪人だ、 この分厚い本を読み解け」 患者の男は、うろたえていた。 「ふん、病的同士でも喋れないか、ならば、簡単に教えてやろう、 トナカイさんのページだ」 そう言うと、黒いローブの男は、分厚い本を置いて去って行った。 患者の男は、分厚い本を受け取った。 そこには、「トナカイの刺青」と、黒文字で書かれていた…。
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