もどきのサンタクロース

2/11
前へ
/11ページ
次へ
―雪の町― ある診療所から抜け出した男がいた。 男は、その診療所の「患者」だった。 患者の男は、大人なのに幼稚。 誰かに思いを伝えようとしても、舌を噛んで会話遮断。 自分の言葉で足りなければ、長い時間をかけて絵を描いた。 それは「童心に帰る絵」 だからいつまでもみんなからは幼稚あつかい。 あぶないから、付き人つき。 患者の男は、雪の絨毯に足跡を残しながら呟いた。 「自分は幸せだけど、誰かを幸せにしたことは一度もない」 患者の男の眼が、涙でうるむ。 「苦労ばかりかけた」 患者の男は、裏路地に座り込むと、カバンにつもった雪を手で払い、中から灰色の画用紙を取り出した。 患者の男は、黒いクレヨンで自分を描いた。 そして、そこに肌色と赤を足す。 白い口ひげも忘れない。 おじいちゃんになるまで負けないように。 もう少しで完成。 患者の男は、完成した絵を いじわるな神さまに見せようとした。 すると、誰かがその絵を取り上げて言った。 「誰かを幸せにするのは、簡単な事だ、 幸せにしたと思い込めばいい」 見上げると、「黒いローブの男」が、患者の男の事を見下ろしていた。 その手には「分厚い本」 「お前が描いたその下手くそな絵は、どこかの病的な大富豪の老人の絵だ、 そいつは、金と薬の力を使って、誰かを幸せにしたと思い込んでいるが、 それは違う、 私から見れば、刺青を刻まれた罪人だ、 この分厚い本を読み解け」 患者の男は、うろたえていた。 「ふん、病的同士でも喋れないか、ならば、簡単に教えてやろう、 トナカイさんのページだ」 そう言うと、黒いローブの男は、分厚い本を置いて去って行った。 患者の男は、分厚い本を受け取った。 そこには、「トナカイの刺青」と、黒文字で書かれていた…。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加