もどきのサンタクロース

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―子ども― ある雪の日。 患者の男が、隣町の中を歩いていた。 いつもならただ寒いだけの町が、その日はクリスマスの絵画のように、宝石を散らして輝いていた。 患者の男が立ち止まった。 そこは、オモチャ屋だった。 硝子の向こう側には、オモチャが見える。 「いいな」と、患者の男と、誰かが呟く。 ふと、横を見ると、子どもがいた。 その子は、男の子。 硝子ケースに顔をくっつけて、オモチャを眺めている。 子どもには、オモチャを買う贅沢な金はない。 ならば盗めと悪魔は囁くが、子どもを泥棒にして、無理やり大人にしてやるのは、あまりにも可哀想。 代わりに盗んでくれる人がいれば、話は別だが、まだココにはいない。 患者の男は、オモチャにさよならと手を振り、オモチャ屋から離れた。
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