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「痛みますか?」
運転手のおじさんは振り返らずにそう言った。たしか名前は佐々木といった。白髪交じり。どこか優しそうな声。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。ただ、ちょっと運がなかったな、って思っただけで」
添え木をしているものの、右の手首はじくじく痛む。でも、それを今言ったところでどうなるわけでもない。
「それは確かに。あの場所は日の当たりの関係で左側が固くなりやすいんですよ。私たちもよく見回って手入れしているんですがね」
リフトで山頂まで登ってすぐ。斜面に向かって右側の中級者コースを私は進んだ。コースに出てすぐ、小さな木々の間をボードで駆け抜けている時に板が不意に跳ねた。木々の中でもひときわ大きいものの左側を通り抜けようとした時だった。
その時なぜ左を選んだのか明確な理由はない。
普段の私なら、難なく体勢を立て直せるはずだった。でも、その時の私は普通じゃなかった。体勢が崩れたまま手を着いてしまい、鈍い音と激痛が走った。
「旅行の思い出のひとつとしては、ちょっとパンチが効きすぎてますね」
そう自嘲気味に笑いながら、私はさっきまでの出来事を思い返す。
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