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「なあ、最後にペアで分かれて下まで競争しないか? コースも二つあるしさ」
山頂でリフトを降りた時、康介がそう言った。ナイターも存分に楽しんだ頃。四人掛けのリフトの端、私とは反対側の位置だった。
ペア、と聞いた途端に私と沙月は互いに目を合わせた。沙月は康介のことが好きだ。そして私も。
「いいねえ、やろうやろう」
康介の隣でボードについた雪を払いながら翔が賛同する。
「面白そう! やろうよ!」
沙月もきゃっきゃと飛び上がる。
私はといえばうんうんと頷くだけだった。私は、沙月のように振舞うことが苦手だ。
沙月みたいに綺麗に髪を巻けない。ピンクのウェアが似合わない。いつも、みんなから少し離れた位置から傍観してしまう。そんな自分が嫌いだ。
「よし、決定。そしたらペア決めだ」
そう言うと康介はウェアのポケットから百円玉を取り出して、真上に弾いた。昼ご飯を食べた時のお釣りだ。
コインはクルクルと回りながら落ちてきた。康介はそれを両手でキャッチしたかと思うと、素早くどちらかの手に入れた。
「えーっと。じゃあ有沙に決めてもらおう。右か、左か。当てた方が俺とでいいっしょ?」
康介の大きな手が私の前に差し出される。コインが入った方を当てれば、康介とペアになれる。だから、これは絶対に当てなければならない二択だ。
私は、右を選んだ。
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