ある日のこと

5/5
前へ
/5ページ
次へ
「え、だって、カレンダーには……」  俺がカレンダーを指さすと、確かにカレンダーの2月14日は、土曜の列に位置していた。 「あんた、このカレンダーは去年のだよ。それも一月のよ」  女主人に大きく鼻で笑われた。なんかショックだ。  小学生の時から通いつめている年月のおかげで、高校生に成長しても女主人の俺への扱いは小学生のままだ。 「おばちゃんがいつまでも去年のカレンダーを掛けているから悪いんだよ」  勘違いした自分も悪いが、鼻で笑われてなんか悔しくて、つい向きになってしまった。 「だってこのカレンダーの1月の写真がお気に入りだから、なかなかめくれないのよ」  いい年なのに女主人は少女のように恥じらう顔をして、カレンダーの写真の中にいる人物をみた。  まるで恋人のように、朝起きたらベッドのシーツの上で、君の寝顔可愛いねなんて言って微笑む美青年が、窓から差し込む朝日(多分撮影用の照明だろう)の優しさに照らされている。  中村ユウヤ。  ケイの兄のアラタと同じ芸能人で、アラタと同じ女性人気が高い若手俳優だ。 「明日学校か。また姉貴に怒られる」 「はあ、また兄貴へのチョコがあるのか」  モテモテブラザーズは嘆息して、残りのお好み焼きをつまんで口に入れている。  彼らにとってはいつもの2月14日。  俺はあの時から忌み嫌う日が来ると思うと辛くなる。  そして毎年恒例の母と姉からの情けのチョコを貰うだろう。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加