夜、雪が降った、それだけのこと。

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夜、雪が降った、それだけのこと。

なんとなく気が乗らなかったので、無理に仕事を切り上げて、定時で帰って来た。 特にすることがある訳でも、見たいテレビ番組がある訳でもなかった。洗濯物も干してはいなかったし、買い物をしなきゃいけないということも、食べたいものがある訳でもなかった。 早々と家に帰って来て、お風呂に入って、即席ラーメンに卵を入れただけの夕食を終えて、コタツに入ってボーッとテレビを眺める。 なにがあった訳でもない。 誰かと喧嘩もしてないし、誰かに会いたいとも思ってない。 失敗もしてないし、注意も受けてないし、自分の陰口も聞こえてきてはいない。 もちろん、褒められてもないし、いいことがあったわけでもない。 お金を拾ってもいない。 ふと、シンとした。 なんだかやけに静けさを感じたというか、家鳴りを聞いたときのそれのように、ゾクッとしたのではないけれど、ウチの外がやけに静まり返っているように感じた。 こういうときはきっと雪が降っている。 ベランダへ向かうとやはり、肩がぶるっと震えるほど窓辺は冷えていて、レースのカーテンの向こう側、外は一面白の世界、雪景色が拡がっていた。 星も月も見えない夜空から白い雪がシンシンと降り続いていた。 天気予報は雪のことなど言及していなかったけれど、まぁ、降るときは突然降るものだ。 すべての音が掻き消され、降りしきる雪で、世界は塞がれてしまったかのようであった。 ああ、今夜はこの景色をこうして見るために早く帰って来る必要があったのだと、そんな気になった。 そして、とても満たされる想いがした。何故だかは分からないけれど、心が洗われる気がした。 また明日から頑張ろう。そんな気にさえなれた。
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