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夕方3時30分。おやつの時間だ。そろそろあいつがおやつを持ってやってくるはず……。
「おいミケ」
お、きたきた!
「ほら、今日のおやつだ」
「あ~お疲れ様~」
僕が声の主を適当に労うと、彼は露骨に不機嫌になった。
「いつも俺におやつを貰いに行かせるな。ご近所回るの大変なんだぞ」
不機嫌な声でそう言うのは、この家のもう1匹の猫・タマ。名前で連想される某国民的アニメの猫とは反対に、真っ黒な毛並みが特徴のオス猫だ。
「ずっとこたつでダラダラしてないでたまには動け、ミケ」
「え~やだよ。めんどくさいし」
「全く……。メス猫がそんなんじゃだらしないぞ。そんなんじゃ番になる相手が見つからないだろうな」
「うるさいなあ」
僕はタマに背を向けた。
僕は、一人称は「僕」だけどれっきとしたメスだ。オス猫が近所に全然いないから、僕の番探しは難航している。それを知ってて言うんだからタマは質が悪い。
「じゃあ、外に出てるタマは相手見つかったの?」
「お、俺は関係ないだろ!俺はそのうち見つけるし、今はお前の話をだな……!」
「まあ、僕はわざわざ外に出て探す気も無いし?」
「はあ!?」
「だって、目の前にこんないいオス猫がいるのに、なんでわざわざ探すの?」
「……ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」
タマは少し強めの口調でそう言うと出ていってしまった。怒らせたように見えるが、彼の尻尾はピンと垂直に立っている。
──ふふっ、嘘つけないんだから。可愛いやつめ。
そう思ってから、僕は重大な事実に気がついた。
おやつ、タマが咥えて行っちゃった……。
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