最果ての夜

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「す、すまない……」 「覚えても無いのに、謝らないでよ……」 「でも、君が泣いているのは……何と言うか胸が苦しい」  雪は、まるで子供の様に不貞腐れる自分より長身の音生をギュッと抱きしめた。  抱き返される力が強くて腰から仰け反る様な格好になっても、肩に沁みる音生から溢れるものが熱くて、腕を解けない。  高校の頃、路上で歌っていた音生に声を掛けたのは自分らしい。  つまり音生はファッション誌のモデルでは無く、絵のモデルをやっていたのだ。 「俺をモデルに先生が絵を描いて、それがちょっと話題になった。それから俺はテレビとか出る様になって……先生との時間はどんどん少なくなって……」 「そう……だったのか」 「でも先生じゃないとダメなんだ……。先生以外好きになれない。だから何処にも行かないで」  唐突に唇を奪われて、雪は息を詰め目を瞠る。  寒さに硬くなった体を容易に押し倒されて、馬乗りになった音生は近くにあった絵筆を取り、首筋をその絵筆でなぞられて、熱を孕んだ音生の眸に息を飲んだ。 「昔みたいに、筆でなぞってあげようか? 好きだったでしょ、先生」 「な、何を……」 「エッチしたら全部思い出すかも知れないよ? 俺との、アレコレを。忘れたいなんて言われて、俺がどんなにショックだったか分かる?」  雪は自分の股間に当たる音生の怒張に気付いて、やっと状況が把握出来た。  この光景には見覚えがある。下から見上げるこの妙な既視感。  呆然と見上げている内に、音生は慣れた手つきで体中を弄り始めて、上着が肌蹴たせいで余計に肌が粟立つ。 「あっ……音生……」 「寒い? すぐ温めてあげる」 「あっ……そ、んなとこ……舐めるなっ」  熱を帯びた音生の舌が胸の蕾を飴でも転がすかのように執拗に舐る。  記憶もないのに体はその熱を覚えている様で、雪は強かにその熱に酔って行った。
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