最果ての夜

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 雪山と聞いて、ここが簡素なロッジの様な所である事は何となく分かって来た。  だが、音生は緩くパーマの掛かった脱色を重ねた金髪に近い髪を掻き上げ、ピアスを沢山つけた青年でそのロッジに似合わない風貌をしている。  口の端にピアスは付いていなかったが、明らかにその情の深そうなふっくらとした下唇の端には一度穴を空けた痕が残っていた。  音生が言うには吹雪の中で倒れていた自分を拾ってここまで連れて来た、と言う。 「全然覚えてないの? 全く?」 「……申し訳ない。自分の名前も……思い出せない」 「そっかぁ……倒れた時に、頭でも打ったのかな? 痛む?」  音生はそう言うとふんわりと近づいて、頭に触れた。  彼の声は酷く耳触りが良くて、熱で浮かされた鼓膜をしっとりと舐める様に響く。  尖った頤から喉仏までの緩やかな曲線が視界の傍に近づいて来て、首筋から肌の甘い匂いが漂って来た。 「か、体中が痛くて良く分からない……」 「あはは、だろうね。足は捻挫してるみたいだったから、一応ここにあるもので出来る限りの処置はしてみたけど……」 「申し訳ない……」 「良いよ。ここには俺しかいないし、この吹雪とその足じゃ当分街へは降りられない」  音生はそう言って促す様に格子窓の方へと視線を遣った。
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