最果ての夜

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 窓の外は吹雪が猛威を振るっていて、自分が何故そんな所で倒れていたかさえ全く思い出せない。 「名前、ないと不便だね?」 「……私は、何か身元の分かる物は持っていなかっただろうか? 財布とか……携帯とか」  そう言うと、音生は気まずそうに後頭部を掻いた。 「あるにはあったけど、免許証とか全然入って無くて……。携帯は壊れたみたいだよ? 起動出来なかった」 「……そうか」 「まぁ、どっちにしろここ圏外だし、持っててもあんまり使えないけどね」 「迷惑をかけて済まない。君の好きなように呼んでくれて構わないよ」 「えぇ……それじゃあ、どうしよっかなぁ……」  一頻り考えた後、雪の中で拾ったから雪さん、としたり顔で笑われる。 「肌も真っ白だし、良く似合うと思うけど、どう?」 「……仮初の名だ。そんな綺麗な名前じゃなくとも」 「えぇ……めんどいなぁ、もう」 「あ、いや……文句を付けるつもりはないんだが……」 「じゃあ、思い出すまで当分は雪さんで」  音生は困った人だ、と肩を竦めたが、面倒だと言いながらその表情は柔らかく、自分の事すら分からない今、雪にとって音生は銀糸の様にか細く目の前に下がる蜘蛛の糸だった。
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