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雪はふと、彼も自分と同じ境遇なのだと思い当たる。
「き、君はこんな所にいて平気なのか? ご家族とか……」
「あー……、うん、って言うか、家族いないから」
「そ、そうか……それは済まない」
「良いよ。慣れてるし」
雪は不味い事を聞いてしまったと、ただ俯いてシチューを啜った。
多分、自分は元々口下手で人と喋る事が得意ではないと言う事だけは、体が覚えている。
それでも、不安だからか黙っていると息が詰まりそうになって、何か会話にならないだろうかと、頭の中が忙しない。
「ねぇ、雪さんには恋人、いると思う?」
「え? さぁ……どうだろうか……。あまり、期待は出来ないと思うが」
「えぇ? 何でよ。雪さん、中性的で何か色気あるし、モテそうよ?」
「いや……どうやら私は酷く口下手な様だし、女性を楽しませられる様な気がしない」
記憶がないからかも知れないが、自分が酷く無能で無力な人間に思えてならない。
雪は自分が何を生業として生きていたのかすら思い出せないので、もしかしたら無職の可能性だってある、と本気で自分を疑っているくらいだった。
「き、君は? か、彼女とか……心配しているんじゃないのか?」
「あー……かもね」
「か、可愛い人なんだろうな」
「そうねぇ、めっちゃ可愛いよ。すげぇ心配性でいつも俺の事疑ってるけど」
「う、浮気とかそう言う事を、か?」
「いんや、そもそもの根本的な所」
音生の言っている事の意味が良く分からずに、雪は首を傾げた。
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