最果ての夜

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 音生いわく、知り合ったのは三年前で最初はナンパかと思ったらしい。 「俺、高校の時から路上で歌ってたりしてて、そん時にモデルやらない? って声掛けられてさ」 「モデル?」 「うん。最初は何言ってんだコイツって思ったんだけど……俺の事凄い褒めてくれてさ、カッコいいとか歌が上手いとか、俺単純だからソッコーで好きになっちゃって」 「……な、なるほど?」 「でもあの人は俺がどれだけ好きか、全然分かってない。もう三年になるって言うのに……」  音生はそう言って眉間に皺を寄せる。  まさかモデルをやっているとは思わなかったが、確かに身長は高いし顔も整っている。  音生が自分の恋人を“あの人”と言うのが、年上なのだろうと思わせた。  この愛嬌の良さや真直ぐな物言いは、女性の、特に年上の女性にとっては可愛く見えるのかも知れない。 「俺はあの人の為なら何だって出来るし、何処へだって一緒に行くのにさ……」 「とても好きなんだな、その人の事が」    そう言うと音生は頬を赤らめて「うん」と嬉しそうに笑う。  雪は記憶がないと言う事が、記憶を失ってもさして問題のない薄っぺらい人生を送って来た証拠の様に思えてならなかった。 「じゃあ、早く天気が回復すると良いな……。彼女も心配しているだろうし」 「……そうだね」  そう言って音生は目を覚ました時に見せた泣き笑い顔を見せた。
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