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おろし立てのハイヒールに、白がひらひらと落ちては、消えていく。
足下がしっとりと濡れてくるところに、風が吹き付けてくる。
タイツを履いていればどうにかなると思ったが、どうやら都会の冬を舐めていたようだ。
「ねえ」
大丈夫?
薬指にはめられた輝きよりも、今は足下を眺めている方が集中できた。
「大丈夫」
何度も念入りに塗った紅が夜の街明かりに妖しく映えることを知ったのは、いつだったか。
「だからさ、今度こそご両親に挨拶させてよ」
カップルが行き交う夜の街。
そこにいる私は、寒いのに薄着で無理をした女の一人にすぎない。
私でもわかるブランド物のスーツを着た彼と並べば、どう見られるのだろう。
禁断の恋?身分差の純愛?
「私だってそうしたいよ。でも」
絞り出すようなその声は、悲劇のヒロインか、薄幸のプリンセスか。
どちらにせよ、望む物は変わらない。
ハッピーエンドだ。
「でも?」
「うち、借金があってさ...迷惑は、かけられない」
だめだよね。
力なく笑って、お気に入りのグレーの手袋を落とした。
積もる様子もない雪のせいで、べちゃべちゃの道路。
その上で、グレーが一気に濃くなっていく。
そういえば、あの人にもそろそろ連絡をしないといけない。
「いいよ」
「え?」
ゆっくりと視線を上げると、真剣にこちらを見つめている。
「君の口座に振り込んでおく。いくら?」
「えっと、確か...」
さあ、今度はいくらにしようかな。
「1500万...くらい?」
私にとっては史上最高額だけど、あなたにとっては端金。
それくらい、この前乗せてくれた車で支払えるでしょう?
「わかった」
「ほんとう?!」
抱きつくと、濡れた上着がさらに冷たくなる。
あ、手袋踏んだかも。
「大好き...」
あなたみたいな、お金持ち。
「俺も」
でも、彼は知らない。
「永遠に?」
永遠の誓いをした今日が、永遠のお別れになってしまうことを。
「永遠に」
ああ、なんて馬鹿な人!!
足下では、街灯に照らされた赤いエナメルが、ぎらりと光った。
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