白とは呼べない

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確かな記憶がある。 真っ白な雪景色の中、血のように真っ赤な瞳を見た。 それが耳の長い白うさぎであると気づくには、時間が要った。 ただただ、跳ね回る赤い2つの(まる)が恐ろしくて、泣きわめいた。 その時の出来事を必死に訴えたけれど、両親は取り合ってくれなかった。 遊びに行く親戚の家にも、行ったことのある旅行先も、真っ白な雪とは無縁の場所ばかりだったから。 私の行動範囲には、白うさぎと出くわすような「雪国」は存在しなかったのである。 「怖い夢を見たのね、かわいそうに」 母はそう言って優しく抱きしめてくれた。 だけど、今でもリアルに思い出せるのだ。 キンと張り詰めた冷たい空気。 吐き出す息の白さ。 さく、さく と雪を踏みしめる足音。 びしょ濡れになった運動靴と靴下の冷たいこと。 涙で視界が歪んでも、赤色は消えてくれなかったこと。 足を伝っていく温かいもの。 つんと鼻につく臭いも。 ああ、私はあの赤に吸い込まれて、消えてしまうんだーーー。
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