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流線形
友子は会社を辞めて、一人で季節外れの海へやって来た。
それなりに頑張ったはずだったが、もうすべては後の祭りだった。
その一か月前には、付き合っていた貴生とも別れてしまった。
しばらくは失業保険と少ない貯金で、この海沿いの街で暮らしていよう、
ただ独りでブラブラしていようと友子は思っていた。
サーフボードが波間に揺れていた。
それを黙ってみつめながら、友子は貴生に渡すはずだった手作りのバレンタインのチョコレートを捨てた。
大好きだったはずのバレンタイン・デイが、もはや色褪せた虚しい、何もない一日に思えた。
サーフボードは、とある学生風の青年のものだったようで、青年はそれを取りにきて、ボードを持って去っていこうとした。
だが青年は友子に気がつき、これから一緒に食事をしようと告げ、友子が承諾すると、ふたりは海沿いのレストランで食事をした。
その後、普通に男女の関係になったが、しかし友子と青年は、相変わらず昼間海辺で出会うと、ちょっとだけ口を効くだけの付き合いだった。
だいたいその青年が、どこに住んでいるのかも友子は知らなかったし、聞いたりもしなかった。
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