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「あぁ、そうか。あの日も、こんな夜だった」
別れ話の拗れ。
彼女が、包丁を持ち出さなければ・・・
怒りを、一瞬でも抑えることが出来ていたなら・・・
しんしんと降り続く雪・・・
マンションの階段、薄らと氷の張った水たまり・・・
・・・僕は、悪くない。
正当防衛だった。
彼女が、たまたま突き出した僕の手に当たって、勝手に滑って転げ落ちただけ。
『別れるなら、死ぬ』それが口癖のメンヘラ女。
あのまま続けていたら、恐らくこっちが死んでいたはずなんだ。
吸わずに灰皿の上に放置した煙草から、紫煙が広がる。
「・・・なんで、止めたんだっけ・・・」
背後では、ゴトゴトと音を立てて、洗濯槽が回っている。
もう、水の色は透明になっている。
「あのあと・・・確か・・・」
再び煙草を咥えて目を閉じた。
地面に転がった女の死体・・・
辺りに広がる赤い水たまり・・・
僅かに覚えた高揚感・・・
立ち尽くす僕の、震える肩を叩いてきたのは・・・・・・・・・?
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