雪の夜行

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雪の夜行

締め切られた電車、外は雪化粧をまとい家や畑がすべて白く染まっていた。普段通勤で見る色鮮やかな屋根がすべて白い。 街灯の明かりが降り続ける雪を照らしこれからの日常生活への困難を予兆させた。 「お客様には大変ご迷惑をお掛けしております。ただいま除雪作業を行っております。発車までもうしばらくお待ちください」 このアナウンスが流れ続けて一時間は経った。たまに動いては止まり、動いては止まり。電車は年老いた亀のように進んだ。 それに対し止まらず降り続ける雪を、混雑の中運よく窓際に立てた特権を使い眺めていた。 暖房が効いているとは言えドアからのすきま風は寒かったが、スマホを眺めているより気持ちが落ち着いた。 この雪はいつまで降り続けるのだろうか? 都内では明日にはやんでしまうだろう。雪は一時の災難でもあり、一時の癒しでもある。 普段なら暗い地面がすべて明るく白く光っている。 なんとも不思議な空間だ。 白い雪の道しるべと思いきや畑との境目も見失わせる。 “加須駅についたら気を付けて歩かないと” 口元までマフラーを上げ暖をとった。 家まで駅から歩くと15分。しかし、タクシーを待つのは一時間。 この際、この暖房の効いた車内にいる方が幸せなのかもしれない。 「大変長らくお待たせいたしました。発車します。」 放送が流れ、車内がざわついた。 安堵の声や愚痴等が聞こえた。 “あーやっと動く” ガタンと一度音を立て電車はゆっくりと動き出した。 少しずつスピードを増してガタンガタンとテンポを上げていく。 景色が後ろに流されていくが目に入ってくる景色は全て雪景色だった。 たまに子供が作ったであろう雪だるまが街灯のスポットに照され目に入った。なんとも微笑ましいでき具合。 雪の日にしか見れない景色。 年に一度あるかないかの景色だ。 『そんな異空間の一日の景色を愚痴で終わらせるのは愚かだ。景色を楽しんでおいで』 大人達が愚痴を溢すなかじいちゃんがよく言っていた。 きっと北国ではそんなことは言っていられないのだろうが、都内でのその特別な景色を楽しめる自分は今、誰よりも幸福だと思う。 これは確実にじいちゃんのおかげだ。 感謝に尽きない。
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