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何度目の夜だっただろう。
「あなたは私に好意を持っているようだけれど、私がそれに応えることはないわ」
初めて彼女の方からそう告げられた。なんてまっすぐな物言いをするのだろう。
拒否ととれるその言葉を聞いても、僕は一層彼女に惹かれてしまった。
「それでもきみに会うために僕はここに来るよ」
彼女は僕の返事を聞いているのかいないのか、空を見つめていた。
空からはいつものように雪が舞い降りている。
「私は雪が嫌い。どれだけ美しくても、地に落ちると消えてしまう。例え地に残れたとしても泥と混ざり醜く姿を変えてしまうわ」
何も言葉が出てこなかった。
彼女は雪のように儚く美しく、僕は雪が好きだった。雪の夜に現れる彼女もまた、雪が好きなのだと思っていたから。
「きみは何でいつもここに居るの? 雪の日に」
今まで触れてはいけない気がして聞けなかった疑問。今日なら聞ける気がした。
「待っているから」
「……待ってる?」
「待っていた。でも選ばれたのは私ではなかったようだわ」
そう言って自嘲ぎみに少し笑った。
僕が見たかった彼女の笑顔。
それはとても哀しく胸が詰まるものだった。
その日を境に雪は降らなくなった。
笠原雫も現れることはなかった。
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