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小さな町だからその気になれば探し当てることが出来るのではないかと思っていた。
休みの日のたび、駅や商店街に出向き、女の子が行きそうな店を覗いたり、同じような年頃の子に彼女を知らないかと尋ねたり、あのバス停にも通った。
しかし、来る日も来る日も笠原雫に関する情報を得られないまま、時間だけが虚しく過ぎていった。
あの出会いは何だったのだろうか。夢か幻だったのだろうか。
でも僕はもう彼女に恋をしてしまった。確かにあの時間は存在し、時が過ぎるほど想いは深まり、心が彼女を求めた。
夢を見たーーー
「雫はまるで雪のように綺麗だな」
男が雫の頭を撫でる。
「迎えに行くからバス停で待ってて。一緒にクリスマスを過ごそう」
バス停で佇む雫。雪が深々と降り続いている。何度も時計を見ながら真っ赤になった手を擦り合わせる。
日付けが変わり、決心したようにどこかの建物に歩いて向かう。
途中、コンビニでアイスクリームを2つ購入する。
マンションの一室の前でインターホンを押すと、背が高く体つきの良い男が、誰だこんな深夜にとぶっきらぼうにドアを開けた。真冬の深夜にも関わらず上半身裸だ。男は雫を見て驚きで目を見開き、
「お前、どうして俺の家を……」
怒り任せに手を振り上げた。
その時、奥からシーツで身を隠した女性が顔を覗かせる。
「あ……」
女性の存在に気づき、雫は駆け出した。
男は追って来なかった。
気づけば雫はそのマンションの屋上に居た。手に持っていた袋からアイスクリームを出し、食べる。食べながら、泣いた。声を殺し、どこまでも深い闇に堕ちていく心とともに……そして、雫は屋上から飛び降りたーーー
これは……一体……彼女の……?
僕がなぜこのような夢を見たのかわからない。事実か妄想かさえ、彼女に会えなくなった今では確かめようがない。
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